父の決断

来年1月3日に満78歳の誕生日を迎える父に免許更新の通知がきた。
3年前、初めて高齢者講習を受け、「また3年乗れると」喜んでいた父。
あっという間に2度目の講習の通知がやって来た。

山登りで鍛えた足腰は、まだまだ衰えていないし、頭脳もしっかり働いているけれど、唯一気がかりなのは「目」のこと。
悲しいかな眼鏡をかけても視力があまり出なくなっているようだ。
父は、早速眼鏡屋さんに連絡をし、新しい眼鏡を作りに出かけた。
更新に必要な写真も用意した。
「免許用写真の白い背景と、髪の境目がわからない」
と言う父のことばに、笑ってみせた私。
いつの間にか父の髪は、すっかり白くなっている。

そんな父があっと言う間にした「決断」。

「(250ccの大きな)バイクも、(ピカピカに光っている)車の運転もやめる。
免許更新はしない。
バイクの引き取りと新しい電動自転車の購入をもう頼んだ。」

父の決断に私たちが口を挟むことは、決してできない。
63歳で初めて登った京都で一番高い愛宕山。
雨の日も風の日も不屈の根性で6年半かかって達成した1000回目の記念の日には、私たち家族も一緒に登った。
参道では、愛宕神社が建立して下さった記念の石碑が私たちを迎えてくれた。

1000回の登拝を成し遂げたその後も愛宕山に登り続けた父。
先月10月28日1391回目登拝。
1400回を目前にしての決断だった。

ドライブが大好きで、琵琶湖や日本海によく家族を連れて行ってくれた父。
私が自分の車にキーをつけたままロックしたときは、すぐに合い鍵を持ってかけつれてくれたっけ。
今の私ぐらいの年齢の時も母と遠くまで出かけていたし、先月にはひとりで滋賀県まで行ってきたとか。

父は、誰かに言われてやめるより、自分の生き方は自分で決めたかったのだろう。
大きな事故もなく運転を卒業する決断をできたこと、お祝いしてあげよう、と思った。
新しい電動自転車が来たとき、父の好物のお赤飯を炊いて持って行った。
父は、その自転車ですでに御室88ヶ所に行ってきたという。

「あきらめが早いね〜」という母の言葉に
「切り替えが早い・・と言って。」と切り返す父。

「また愛宕さんに行きたくなったら、バスで行くかもしれへん」
父は、今日もツヤツヤした顔でこう言っていた。

がっくりきていないかと心配した私は、まだまだ・・・。
負けないようがんばらなくっちゃ!          
(2005年11月ゆみこ記)