Take the A train (A列車で行こう)
 
 
ピアノの経験があったのが幸いして、電子オルガンの講師養成コースにスムーズに入れた私は、幸いにして講師資格のオーディションにも一度で合格することができました。
けれど、私の中の引き出しはまだまだ空の部分が多く、演奏できる曲のジャンルにも偏りがありました。 
ツェルニーの練習曲を電子オルガン用にアレンジしたものや、クラシックの曲、ムーディーな映画音楽やバラードなどは、比較的抵抗なく取り組めたものの、リズミックなものは、どうもノリが今ひとつ。”You are my sun shine”・・・初めは、この曲のスイング感を出すことさえ、なかなかピンと来なかったのでした。
 
 それでも、少しずつ色んな曲にトライして、意欲が増してきた頃、あるコンサートに行きました。
アレンジの仕方、音色の作り方、リズムのノリ・・・さすがに私より、格段に優れている演奏を聴いているうち、”ガ〜ン!”と衝撃を受けた曲が・・・。
 
 ”格好いい!弾きたい、私もあんな風に弾いてみたい!”

私は、ある演奏に、特にその左足の動きに憧れてしまったのです。
”Take the A train”・・・”A列車で行こう”という曲。
(誰もが,聞いたら”ああ、この曲”とうなずかれることでしょう。)
この時の演奏は、ウォーキングベースと言って、ベースを刻む左足が、休むことなく鍵盤の上を動き、音を奏でていたのです。

 楽譜を手にした私の猛練習が始まりました。
それまでの単純なベースの動きとは違います。リズムボックスを鳴らし、何度も何度もベースだけを練習しました。もちろん、ベースだけができても音楽にはなりません。
右手、左手、右足、左足、全ての動き・・・そのため、体で感じて、心で感じて、ようやく一曲を何とか演奏できるようになったとき、とても嬉しかった!

お洒落なジャズのフィーリングをどれだけ出せていたか、自信はありません。
けれど、”誰かに憧れてがむしゃらに練習する”あの情熱が、それからの私の大きな力になってくれたことは確かで、そのきっかけを作ってくれたのが”私と同じ若い女性の演奏するTake the A train”だったのです。
                                   (2003.9.22)