ひたむきな乙女たち    

 奈良の遊園地のゲートをくぐると、前方右手に階段が見えてきます。
遠い遠い昔、まだお化粧っけもないピンク色の頬の頃、そこで上演されているものがいったいどういうものなのかも全然わからないまま座席に座っていましたっけ。
遊園地に行っても、友達の乗るジェットコースターを見上げながら待つだけの怖がりの少女でした。
雨降りの遊園地の中の劇場は、とても寂しくて、でも舞台の上の人たちは、一生懸命がんばっていた・・・このことが、少女の胸の奥深くに小さな灯火をを残してくれました。

 2度目にその劇場の座席に座ったある秋の日、私の膝の上と傍らには、小さな子どもと夫が座っていました。
若き日に座った劇場とは打って変わって多くの人に華やいだそのわけは、その公演の千秋楽であり、当時のトップスターの方が舞台を去られる日だから、ということでした。
歌劇とは思えない生身の人の匂いのするトップさんのお芝居。お行儀良く並んで立ち、舞台を見つめる歌劇学校の少女達の美しい瞳。

 次の年、母と共に奈良旅行のスケジュールに組み込んだ子ども達のための遊園地。そこに行って、またあの劇場に、あのひたむきな人達に出会えることすら意識してはいませんでした。
 時は春。舞台の上に現れる優しい桜の精のおかあさん。ズラリ並んだ舞台上の人達の澄んだ眼差しの中、述べられる口上・・・子ども達は、退屈もせず舞台を見つめました。
決して手を抜くことのない彼女たちの歌やダンス、お芝居、そして笑顔。
小さな子どもにも何かが伝わったようでした。

 あれから時は流れて、膝の上に座っていた子ども達は、二人の大学生になりました。
初めてあのひたむきな姿に出会った遠い思い出の日から、2003年今年の春まで、私が出会う彼女たちの笑顔はいつも変わりませんでした。
真夏の暑さの中連日休みなく公演が続くときも、どんなときも手を抜かず輝く笑顔で舞台を勉め続けた彼女たち。

 今、その劇場での最後の公演が行われています。
厳しい経済情勢の中、会社からの支援打ち切りを伝えられた劇団は、存続の危機に立たされているのです。
舞台に立つのと同じひたむきさで、厳寒の中袴姿で劇団の存続を訴え続けた努力は実るのでしょうか。

 あの場所でできた私たち家族の思い出のひとこま・・・舞台を見て、遊園地で遊んで、プールで泳いで、動物に出会って・・・子ども達の笑顔が蘇ります。
そして重なる舞台の上の彼女たちの笑顔。

 最後の公演でもいつもと同じように、いえ、いつも以上のこぼれんばかりの笑顔。
とびっきりのラインダンスを見ていたら、胸が熱くなり、バッグからそっとハンカチを取り出してしまったのは私だけではないかもしれません・・・。
                                                       (2003/04/20.Sun)



by yayako

ResComment

Rose:ある光景が子供の小さい頃のそれと重なった時、胸にグッと来る事があります。娘が離れて暮らす近頃は特に、夫とふたり、あの時はああだったね、 こうだったねと思い出を懐かしんでしまいます。
 
奈良にそんな遊園地があったことさえ知りませんでしたが、その遊園地も劇団の団員の方達も、たくさんの親子を見つづけその移り変わりもしっかりと捉えていたことでしょうね。
(2003/04/21.Mon)   

yayako:一度だけゆみちゃんと観に行ったね。
客席はガラガラだったのに、豪華絢爛の迫力ある舞台でした。
プロ根性があるなあ、と思いましたよ。

私がまだ幼児だったころの写真の中に、この遊園地と劇場が背景になって写ってるものがあります。
全く記憶にないのだけど、写真を見ていると華やかで活気があった様子がうかがえました。

時代の流れで衰退するものもあるけれど、頑張って細々と続けていれば、また日の目を見ることもある。
世の中に受け入れられるものって周期があって、必ずまたブームがやってくるんですよね。

そういう時代が来るまで、なんとか踏ん張ってほしいです。
(2003/04/21.Mon)

ばんちゃん:あやめ池のSKDの事ですね?以前にもココの歌劇団の事を書いて折られたように思います。今,ココも企業所属の運動クラブも次々廃部の危機に見舞われています。   これも時代の流れで悲しい事です。 でも我々は良き時代にそれを見て来た事を忘れずに居たいですね(*^o^*)
昔枚方パークででも観た事があります。あのラインダンスは圧巻きでした.かぶりつきの場所で蹴飛ばされそうな所でもう一度見たいなあ\(^o^)/ (2003/04/22(Tue)

takoyo:良い文章に感動の乾杯! (2003/04/23.Wed)

ゆみこ:皆さん、レスコメントありがとうございます。書いて、すぐ反応をいただけるってとても嬉しいです。

Roseさん、子ども達が小さい頃って、当然私たちも若くて、思い出の中のこどもたちの無邪気な可愛さと、年々色あせてしまった自分たちの若さを思い出すとき、懐かしさと共にふと切ない気持ちになる事ってありませんか?

"おんなこどものすること”って、見もしないで評価する方もいらっしゃる方もあるかもしれませんが、彼女たちは間違いなくプロの舞台人です。
プロの人達がそれを発揮できるフィールドに恵まれないって、とっても無念ですよね。

yayaちゃん、あの日のこと覚えていてくれたの?遠い日の思い出を共有しているって何か嬉しい☆
で、私の言いたいこと、みんな言ってくれて、ありがとう!さすがだわ〜。

あの日、なんであの遊園地に行ったんだろう?
あの舞台を見たんだろう・・・?

ばんちゃん、スポーツや芸能、文化的なことから削られていってしまうのは悲しいですね。
あやめ池で公演しているのは、OSK日本歌劇団というんです。笠置シズコさんや京マチ子さんがご活躍されたところです。
今、最後の公演中で、5月5日に千秋楽を迎えます。水曜日休演ですが、お時間ありましたら一度ごらんになってみてくださいね。
圧巻のラインダンス、見られますよ。

takoyoさん、嬉しい言葉ありがとうございます♪
(2003/04/23..Wed)

akira:自分や子供たちの歴史の中で関わってきた事.それが無くなるというのは.書いてあった日記の一ページが切り取られて行くような気がしますね。いつでしたか.ゆみこさんのトップページの菜の花と海 私の子供と妹の子供たちが小さい頃の喚声が今にも聞こえてくるようでした.
今日で.お別れというSLに何度が行きましたが.そんな日の彼ら(SL〉はいつの日よりも晴れがましく.エネルギッシュに映りました。
「去るものは日々に疎し」とはいいますが.そうでは無く.その人の心に残る風景が大事であり.本当の風景ではないでしょうか。
(2003/04/26.Sat)

ゆみこ:akiraさん、コメントありがとうございます。
”お別れの日は、いつの日よりも晴れがましく.エネルギッシュに映りました。”・・・ああ、そうだなあ〜と思います。そのものを惜しむ気持ちがよけいそう感じさせるのか、実際それが最後にいつも以上のパワーを出すのか・・・。
心に残る風景は実際あったものにそれぞれの深い思いというエッセンスが加わって、さらに美しいものになるのかもしれません。
(2003/04/28.Mon)

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