お役に立てないから・・・ 　

　数日前の夕方、ご飯の用意をしているとき、何となく頭がフラフラしている感じがしました。
”もしかしたら、そろそろ私も気をつけた方がいいのかも・・・。一度血圧でも測ってもらおう。”
そんな軽い気持ちで、近くの病院に電話をしてみたら、当日の電話予約は終了したという留守番電話。
”それならば、昔々母の具合が悪いときに往診してくださっていたあの先生の所にしよう。
診察時間も、まだあと１時間ぐらいあるから。”
そう思った私は、車で５分ぐらいの先生の所に行きました。

　おそらく父と同年齢ぐらいのその先生（確か幼い頃、その先生のお嬢さんと一緒にピアノを習っていたのです。）は、白衣も着られず、たったひとりで受付から診察・・・全てのことをこなされていました。
”内科、小児科”とはいう医院の待合室にいるのは、親に連れられた子供さんばかり。
可哀想に洗面器持参でお父さんとやってきた女の子は、吐き気が止まらない様子です。
子供と一緒にインフルエンザの予防注射を待つ人以外、大人の患者は私一人のようでした。

　名前を呼ばれて診察室に入り、その昔母の往診に来ていただいていたことを話す私に返ってきた言葉は
”昔は、大人も診ていたからな〜”

　先生にお願いして血圧を測っていただいたところ、血圧は大丈夫そうでした。
先生は、”循環器の先生に診てもらった方がいいよ。僕はお役に立てないから、今日はこのまま帰りなさい。”
と、おっしゃいます。

”？？？”
”ま、とりあえず血圧は大丈夫だったからいいか・・・。”
と思いつつ、家に帰りました。

それから約２時間後の10時頃、電話の音。
思いがけず、電話の主は、さっきの先生です。
”僕が診ていただいた循環器の先生、とてもいい先生だから・・・えっと、名前は・・・場所は・・・”
懇切丁寧に説明してくださいます。

電話を切った後、私の心は温かくなっていました。
私が帰った後、先生は、ひとりであの子供達を優しく診察し、全てが終了してから、私に連絡をくださったのです。

”お役に立てないから・・・”
と、診察料もとらず、違うお医者様を紹介する・・・できそうで、できないことではないでしょうか。

長い長い間、町の子供達を診察して来られた先生の診察室には、子供さん向けのかわいらしい体重計やお人形がたくさんありました。
そのどれもに年季が入って・・・。

「いつまでもあの部屋の灯りが消えませんように。」

まだ少しふらつく頭で？私は、強くそう願っています・・・。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2003/12/05(Fri)