シルクロードの旅 1
汽車(チチャイ)
ーこちらではバスをそう呼ぶー
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列車の旅はウルムチで終わる。
そこから先は砂漠地帯に入り、鉄道は敷かれていない。
ウルムチからさきの町へ行くにはバスで、ということになる。
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ウルムチからカシュガルまではバスの直行便が出ており、乗車時間は34時間。
カシュガルからホータンまでが23時間。
列車でならその程度の時間、どうということはないのだが、バスの場合トイレのことが気にかかる。
普通どこの国でもバスはだいたい3時間ごとにトイレ休憩に入るのだが、こちらではまず6時間は走りっぱなしと聞いた。
膀胱容量の少ないワタクシとしましては、これが難題であった。
そこでいざという時の為にバスタオルを膝に、そして小さめのビニール袋をポケットの中に忍ばせておいた。
ところがバスに乗り込むと「長距離高速指定汽車」というにも関わらず、座席は3人用のベンチシート、おまけにその幅は狭く、2名用のシートに3人座るようなもので、通路側に座る人間の尻半分は宙に浮いたままとなる。
さらに満席となってなお、次から次へと人の乗り込みは続き、
「おいおいおいおい・・・」
思っているうちに、通路は座り込んだ無指定の人たちでギッシリ埋まり、そこにその人たちの荷物までもが加わる。
さすがにインドのように家畜こそは乗り込まなかったが、とてもこのような素晴らしい環境において人目忍んで、ビニール袋の中へこっそり・・・など不可能だった。
ある程度は気力と忍耐で持ちこたえたとしても、6時間以上ともなれば自信はなかった。
「〇△☆!!!」
と、大声でバスを止める、という手もあるが、バスの出口までの道のりには、人と物がカラコルム連峰のように立ちはだかっている。
もしも、この衆目の中でとんでもない醜態を見せる羽目にでもなったら・・・
しかし、ここではそれは1個人の恥ではすまされない。
ニッポン国の恥として、後々まで乗客らの格好の酒の肴となるだろう。
さすればどうすればよいか。
入り口があるから出口がある。簡単なことだった。
バスは乾燥した砂漠地帯を、ひた走りに走り続ける。
その間、ワタクシは人間の干物ができていくのを見ていた。
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シルクロードの旅 2
時間(ウルムチ〜カシュガル)
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光と音のない世界を想像してみる・・・・・・
・・・するとその世界にはきっと、五感では察知できない、さらに何か決定的なものが抜け落ちてしまうのに気づくはずだ・・・・・時間。
この風景が延々とどこまでも続いていく。
同じ風景がいつまでも同じのままであれば風景ではなくなり、同じ色調のモノトーンの広がりであれば、やがて網膜は何の刺激も感じることはなくなる。
音はといえば単調なバスのエンジン音、まるで永遠に続く耳鳴りのような唸り。
バスに乗りこの景色とつきあうこと、10時間を超えた辺りで時間が消えてしまった。
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陽が沈んだ。
壊れたブラウン管のようなガラス窓の風景に、夜がしだいに染みていく頃、地平線辺りにポツリとひとつ光り輝くものが浮かび上がった。
それはやがて2つとなり3つとなり、しだいに数を増し、窓ガラスが黒い壁面に塗りつぶされる頃には、鮮やかないくつもの星となっていた。
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私は窓を下ろして、体を乗り出し、そして体をねじって見上げてみた。
見上げた私はその時、おびただしい光の海に向かっていた。
砂漠という不毛の大地から見たそれは、星空といったものではなかった。
天という神々の創り上げた巨大都市の放つ、おびただしい光の輻輳・・・・・
その都市の中央には、天の川が悠々と光をにじませながら、遙か視界の果てまで伸びていた。
北斗七星がある、カシオペア座がある、北極星がある。
もしやあれがスバルか? それから・・・あれは・・・
と、その時、時間は私の中で、ゆったりとした宇宙の鼓動となって脈打ち始めた。
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